サンプル原稿

下巻 P.21~P.32

 Penny Lane

Penny Lane (Lennon-McCartney)

 ポールが、ジョンの“Strawberry”に対抗して作った曲。ジョージ・マーティンは、この2曲をアルバム“SgtPepper's”に入れなかったのは、生涯の誤算だったと言っています。

 確かに“Anthology”でもこの2曲は、マーティン氏入魂のミックスという感じでした。この2曲で、通常のアルバム1枚分の制作費がかかったといわれる程エネルギーを注いだのですから、思い入れも大きいのでしょう。

 この曲は、4トラック録音の極致でしょう。軽やかな曲ですが、音の厚み、使用楽器の種類など「レコーディング・セッション」に記されているとおり3分少々の曲に実に多彩です。

 この曲の素晴らしさの一つはジョンの“Strawberry”と同様、聴く者の頭の中にその光景をイメージさせる事です。

 “Lane”、日本で言う商店街、軒を連ねている様子でしょうか。私などは全く単純な人間で、この2曲だけでリバプールに行ってみたい(未だ実現しません)と思う程です。

 楽曲的に見てみると、まずポールのベースに驚かされます。しかもアレンジにおいては、最も難しい転調の時のメロディックなフレーズは全くもって見事! の一言です。

 この曲のピアノの音に注目してみましょう。曲の前半で、ポールの歌がないときは、殆どベースとピアノしかありません。ここでは単純にコードを弾いているだけのように聞こえますが、一体この音はどうやって作ったのでしょうか? また良く言われる事ですが、間奏でのバッハ・トランペット。

 画竜点睛、この言葉がぴったりはまるようなしかしこれは正確ではありません。竜の目は描く時に、画家はそれが「目を描くもの」という事を知っています。しかしこの場合は。何でもポールが夜のTV番組で、ブランデンブルグ協奏曲を聴いて「これだ!」と思ったとか。

 つまりここが彼等の恐ろしい所なのです。画竜点睛は最初から竜を描いているから点睛な訳です。しかしポールの場合は制作途中でバッハを聴いて「これだ!」となった訳ですから、まるで何が出来上がるか解らないジグソーパズルを作っているようなものです。キーやテンポや曲調を、まるでバッハをそこに置く事を念頭に作ったかのような、そんな錯覚に見舞われます。

 この曲にバッハがなかったら“Anthology”での新しいミックスでは、そんな問いにも答えが出されています。

 ポールの父親のジムがリヴァプールのアマチュア・ミュージシャンであったことは有名な話です。ジムは幼い頃のポールに早くから音楽教育を施したかったのでしょう。10代の前半にトランペットを買い与えています。

 実際ポールはいくらか吹けるようになっていたようです。ビートルズ時代にトランペットをメインで吹いた演奏は残っていないようですが、トランペットを吹くポールの写真は残されています。

 つまり、ポールはトランペットをかじっていたのです。このことが、テレビで何気なくバッハのブランデンブルグ協奏曲を聴いていたポールの耳に響きます。

 「今の音は何だ? トランペットにしては音が高すぎるぞ!」そして翌日このことをジョージ・マーティンに尋ね、彼は『ああ、それはバッハだ。バッハ・トランペット(ピッコロ・トランペットのこと、この呼び名が業界人たちの常識だったのでしょう)だよ』この結果、デヴィッド・メイスンが呼ばれることとなったわけです。

 管楽器の調性について述べておくことも無駄ではないでしょう。楽器の演奏の際にはチューニングを行いますが、それぞれの楽器は概ね調性が決まっています。英語ではKeyと呼ばれます。

 簡単に言えば、例えばトランペットで言えば、その楽器で簡単に出せるドレミファの音階は、ピアノのドレミファとは違い、ピアノの実音より半音低いシ()ドレミ()ファソラシ()になります。このように、実音の音階とは異なる音階を持つ楽器が移調楽器です。

 いくつか挙げると、代表的なトランペットはB♭B管またはベー管と呼ばれる)、ソプラノ・サックスとテナー・サックス(この二つはオクターブ上下の関係にあります)もともにB♭、これらの間でテナーよりも5度上の音階を持つアルト・サックスはE♭です。(ドイツ語でEsと表記されることから、伝統的にエス管と呼ばれます)

 「代表的な」と付記したのは、トランペットには管長が異なるD管、C管、A管、F管が存在するためです。ホルンも同様で、管長の違いによってAA♭GG♭FEE♭DD♭CBとほぼ全ての調性をカバーする種類が存在します。

 これは、ホルンという楽器の演奏の難しさによると思います。その調整のドレミファ~を出すことすら難しい楽器であるため、ほぼ全音階の種類を揃えざるを得ないというわけです。

 クラリネットもB♭、サックス同様にオクターブ下のバス・クラリネットもB♭、クラの5度上のエス・クラリネットはエス管のE♭です。

 この曲のアレンジで使われたピッコロとオーボエ、フルートとファゴットはC管、つまりピアノの実音と同じ音階を持つ楽器です。

 因みに、これらは管の長さで音域が変わる管楽器のことです。そのほかの楽器については、ピアノやギターは基本的に調性が云々言われることはありませんが、C調であると考えていいと思います。また、打楽器はすべてC調です。

 この曲のキーはB♭で、デヴィッド・メイスンが吹いたバッハ(ピッコロ・トランペット)の調性も同じB♭です。

(ピッコロ・トランペットにもC管、B♭管、A管、G管、F管、E♭管、Dの種類があり、アタッチメントの装着で管長を変えるなどするようです。デヴィッド・メイスンがスタジオで吹いたのは本人の弁の通り、B♭管でしょう)

 ポールの耳を引き付けたバッハ・トランペットが、彼が書いた曲のキーと一致していることが、なによりこの楽器こそがこの曲に用意されていたとまで考えてしまう不思議さです。

 ポールがギターを手に入れるよりも前に、父親の勧めでトランペットを練習したことが、トランペットという楽器の調性、つまりB♭の移調楽器であること、そしておそらくはミュージシャンであった父親のジムが、ピアノのキーを叩いて、ピアノの実音とは違う音階を持った楽器であることを教えていたことでしょう。

 因みに、ポールはこの曲をピアノを使って作曲したものと思います。なぜそう考えるかというと、ギターを使った作曲ではキーがCFGといったプレーンなものになりがちです。もちろん、歌い手の声域を考慮してE♭などに落ち着くことはあります。

 しかし、この曲のキーはB♭です。実はピアノという楽器は、先ほど述べた実音のドレミファが白鍵、これらにあるいはがつく音が黒鍵という構造になっています。この白鍵は、黒鍵に比べて手前に長く伸びており、また白鍵同士の距離も、例えば、Key in C(ハ長調)のドレミファ~は全部白鍵です。

 これが他の調になると黒鍵が混じってきます。ここに問題があります。それは、ピアノという楽器にとって演奏しやすい調は、実は白鍵のハ長調(Key in C)ではなくて、黒鍵が多く混じるE♭(ホ長調)やこの曲のB♭(変ロ長調)なのです。

 それはなぜか。ピアノで早いパッセージを弾くことを考えてみてください。鍵盤同士の距離が短いほど、運指が楽になるのは言うまでもありません。さらに、白鍵は長く黒鍵は短い。長い白鍵は(ほとんど体感しませんが)叩くのに黒鍵よりも大きな力が必要になります。

 さらに黒鍵が多く混じる音階なら、指を奥に押し込んで、一段高くなっている黒鍵から、半音上がるあるいは下がる動作は、白鍵同士のミファ、シドよりも距離が短く、また、滑るように横向きにスライドさせて弾くことが可能になります。

 もうひとつ、先ほど述べた管楽器の調性との相性も良くなります。つまり、E♭B♭といった管楽器にとって演奏が容易な調で合わせることができるわけです。R&Bやロックンロールなどのギター曲と違い、クラシック曲やジャズの曲の多くがこういった(初心者にはめまいがするような)ホ長調や変ロ長調で作られているのは、多くはこういったことが理由でしょう。

 ところで、バンドでベースをなさっているアナタ! ヴォーカルも担当していますか? そんなアナタ、このイントロをベースの弾き語りで演れますか? 定位分析を行えばそれが大変困難であり、ポールがベースを弾いて歌うリスナーにマジックを見せていることがわかります。

 この曲にはいくつかの異なったヴァージョンが存在し、5つに大別できます。まったくEMIと各国レコード会社は、私たちをおちょくっているのでしょうか? 

 「いい加減にしろ!」と言いたくなります。加えて“Anthology”では1995ミックスなるものを作りあげて愚痴はよしましょう。私たちは中毒患者なのですから、色々楽しめて感謝するべきかもしれません。

 

マーク・ルーイスン著「レコーディング・セッション」Data:

19661229

 録音開始、この時点でこの曲にはまだタイトルがついておらず、「レコーディング・セッション」の記述では、レコーディング表には “Untitled”となっているという。

(八木彬夫注釈:この表記は不自然です。同じように「レコーディング・セッション」の記述には、ポールは6511月のインタビューで、「“Penny Lane”という名前の詩的な響きが好きなので、このタイトルで曲を書こうと思っている」と述べたと記されています。

 ということは、この曲を録音しはじめてから、曲名をこじつけたということでしょうか。ポールは「あの頃、僕らは(ジョンのこと)張り合っていたんだ。ジョンが“Strawberry”を書けば僕が“Penny Lane”を書いたりしてね。」

 と言うことは、曲はしばらく前に出来ていて、ジョンが“Strawberry”を書いたので、自分も出来かけのこの曲に“Penny Lane”のタイトルをつけたということかも知れません)

 この日テイク1~テイク6を録音、完全ヴァージョンはテイク5とテイク6だけで、テイク6をベストとする。このテイク6は、ポールが一人でピアノを弾いているもので、4トラック・テープのトラック1に録音されている。

 さらにポールは一人で、トラック2に別のキーボード・パートを録音、これはピアノをヴォックスのギター・アンプに繋ぎ、リバーヴをかけて音質を変えている。 

 トラック3もピアノで、これも音質を変えるため、録音のテープ・スピードを半分に落として弾き、リプレイでスピード・アップする。このトラックには、タンバリンも録音されている。

 そしてトラック4は、これまたキーボード・サウンドで、ヴォックスのアンプに通した非常にピッチの高いハーモニュウムと、各種のパーカッション・エフェクト音、シンバルである。

 ここまでの録音からラフ・モノ・ミックスを作成するため、モノ・ミキシング作業、テイク6からRM1RM2が作成される。

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 この日この曲の正式なタイトルが決定、前日の4トラック・テープを、別の4トラック・テープのトラック1にミックス・ダウンし、これをテイク7とする。このテイク7のトラック4に、ポールのリード・ヴォーカルと、ジョンのバック・ヴォーカルをオーバー・ダブする。

 これらのヴォーカルは、テープ速度を47.1/2Hzに落として(通常は50Hz)録音し、リプレイで速度が上がるようにした。

 ここで再びモノ・ミキシング作業、オーバー・ダブの施されたテイク7より、RM1RM2(また12のナンバーが振られている)を作成する。

196714

 空きトラックにオーバー・ダブを行なう。トラック2にジョンの追加のピアノ・パートとジョージのリード・ギター、トラック3にはポールのヴォーカルをスーパー・インポーズする。

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前日にオーバー・ダブされたテイク7のトラック3に代わる、ポールのヴォーカルをスーパー・インポーズする。

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 空きトラックへのオーバー・ダブ作業、テイク7のトラック4 にポールのベース、ジョンのリズム・ギター、リンゴのドラムを、さらにジョンはコンガも演奏し、これらをオーバー・ダブする。

これらの録音は、ジェフ・エマリックによってリミッタ処理され、リプレイでスピード・アップするようにテープ・スピードを通常50Hzで行なうところを、スピード・ダウンさせ、47.1/2Hzで録音された。

 ここでまた4トラック・テープがいっぱいになったため、新しい4トラック・テープのトラック12にリダクション・ミックスを行い、空きトラックを2つ作ると共に、これをテイク8とする。

 これらの空きトラックにジョンとジョージ・マーティンのピアノ、手拍子、ジョン・ポール・ジョージによるスキャット・ハーモニーをスーパー・インポーズする。

 ここでまた4トラックがいっぱいになったため、再び新しい4トラック・テープのトラック12にリダクション・ミックスを行い、空きトラックを2つ作ると共に、これをテイク9とする。

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 テイク9へのオーバー・ダブ作業、4台のフルートと2台のトランペット、2台のピッコロと1台のフリューゲル・ホーンをオーバー・ダブ、ここでラフ・モノ・ミックスを作成、オーバー・ダブを施したテイク9よりRM5RM62種類を作成した。

(八木彬夫注釈:前回のラフ・モノ・ミックスの番号、12が重複していることを考慮した、ナンバーの振り方と思われます。この結果、この時点でのモノ・ミックスは全てラフ・モノ・ミックスですがRM1RM2となり、重複したナンバーの、本来ならば34となるはずのものがRM1RM2となっています。そしてこの日作成されたのはRM5RM6となり、結果RM3RM4は欠落しています。)

110

 さらにテイク9へのオーバー・ダブ作業、スキャット・ハーモニーとハンド・ベルのSEをスーパー・インポーズする。

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 さらにテイク9へのオーバー・ダブ作業、トランペット2台、オーボエ2台、ダブル・ベース1台、そしてコーラングレ(イングリッシュ・ホルンのこと)をスーパー・インポーズする。

(八木彬夫注釈:これらのオーボエ、コーラングレは、今日“Anthology”ヴァージョンで聴くことが出来ます。) 

 同日、Monoミキシング作業、オーバー・ダブを施したテイク9よりRM7RM82種類を作成した。

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 この曲のハイライト、バッハ・トランペットのオーバー・ダブ作業、この日駆り出されたデヴィット・メイスンはB♭のピッコロ・トランペットで間奏のソロとエンディング・ソロの2つをオーバー・ダブする。

 これでこの曲の録音は終了、同日モノ・ミキシング作業が行なわれ、テイク9よりRM9RM11が作成された。ベストに選ばれたのはRM11で、アメリカに至急便で送るため、同日テープ・コピーが行なわれた。

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 再度のモノ・ミキシング作業、前回の作業でRM11がベストとされ既にアメリカに送られていたが、このミックスはまだ不十分であり、改善の余地があると判断され、新たに3種類のモノ・ミックス、RM12RM14が作成される。

これらのうち、RM14が新たにベストとなった。RM11との大きな違いは、エンディングに入っていたソロ、1/17に行なわれたデヴィット・メイスンによるオーバー・ダブの最後のフレーズが削られたことにある。

 このことが有名なトランペット・エンディング・ヴァージョンのアウト・テイクの原因になる。

 イギリスでは、リリース直前にRM11からRM14への差し替えが間に合ったが、アメリカでは既にプレス(工場での製造)RM11で始まっており、この最初のプレス分は発売前のプロモーション/放送用のコピーとして、アメリカのラジオ局に配られた後だった。ただし、一般のリリースには、差し替えが間に合い、RM14でプレスされた。

この結果、今日この曲のモノ・ヴァージョンは、一般的なリリースがRM14、トランペット・エンディング・ヴァージョンのモノ・ヴァージョンがRM11ということになる。

 この曲のステレオ・ミックスは、711022日まで作られなかった。

(八木彬夫注釈:つまりこの曲のステレオ・ミックスはベストの青盤発売のためにようやく作られたということです。このためグループ存続中はリアル・ステレオ・ヴァージョンは存在せず、USキャピトル編集のアルバム“Magical Mystery Tour”収録のヴァージョンは疑似ステレオ・ヴァージョンです。)

 EMIはおかしなことに76年になってから、このUSアルバムをイギリスで正規にリリースする時も、この曲を含む3曲を疑似ステレオ・ヴァージョンのままリリースしています。

 72年にリアル・ステレオ・ヴァージョンがリリースされているというのに、です。まったくいい加減というか、投げやりというか

 トランペット・エンディング・ヴァージョンについては、後にそのプロモ盤(No.R-5810)の希少性をキャピトル、EMIとも認め、この部分だけを抜き出してステレオ・ヴァージョンに加え、新しいヴァージョンを作り出したりしています。

 そのため今日、エンディングにこのトランペットが入っているとしても、それが必ずしもRM11であるとは限らない状況です。判断の基準は、まずモノであること、そして71年に作られたステレオ・ヴァージョンで聴ける間奏前のトランペットの音が入っていないこと、などが挙げられます。

 このトランペット・エンディング・ヴァージョンは多くのブートレグにも収録された、有名アウト・テイクの一つですが、80年代半ば以降のブートレグの中には、こういった「偽トランペット・エンディング・ヴァージョン」を収録しているものもあります。

 真性の「トランペット・エンディング・ヴァージョン」は70年代後半に発売された、アナログ・レコードのブートレグに収録されていましたが、当時の音質は惨憺たるものでした。

 また、その希少性からオークションなどで高値をつけるプロモ盤(No.R-5810)も、製造されてから現在では30年以上が経過しており、コンディションの良いものは、数少ないと考えていいでしょう。

 こういったことから、この「真性のトランペット・エンディング・ヴァージョン RM11」は、一般的にその存在を知られてはいても、今日でも希少なアウト・テイクであると言えるでしょう。

 

【八木彬夫による考察】

使用楽器:

John

 アコースティック・ギター?

Paul

 ベース(Rickenbacker 4001s)

 ピアノ(Steinway & Sons? )

George

 エレクトリック・ギター(Epiphone Casino E-230T)

Ringo

 ドラムス(Ludwig Blue Note 981-1P)

その他

 タンバリン

 ハーモニウム

 ピッコロ・トランペット デヴィット・メイスン

 ハンド・ベル

 コントラ・バス

 コンガ

 

ヴァージョン 1 3:00 2009 Remaster Stereo Ver. CD Album “Magical Mystery Tour”

 現在CDで発売され、一般的に聴くことが出来るのはこのヴァージョンです。この曲はオーバー・ダブの極致で聴き所満載です。ステレオの定位とともにお伝えしていきましょう。

 まずベーシック・リズム・トラックとなったポールのピアノを中心としたトラックはL振切りに置かれています。

 ここにある音は、2台のピアノ、ヴォックスのアンプに通してリヴァーブをかけたピアノ、ハーモ二ウムという構成です。これらのキーボード群とドラムス、ポールのダブル・トラック・ヴォーカル、ベースがここで聞かれます。

 センターにはイントロのベースがあるだけで、このベースは歌が始まるとLに移動するので、その後はブラスが鳴る以外何も置かれていません。意外ですが、この曲はセンター中抜きミックスになっています。

 このイントロのベースはオーバー・ダブでしょう。もともとはポールの歌が弱起で始まって1拍目からベースは始まっていたと思います。しかし、この歌い出しと、ベースの下降メロディをスムーズに響かせるために、イントロの部分だけを継ぎ足したと考えます。

 L45度の音はすべてオーバー・ダブによるものです。ジョンとジョージによるコーラス、途中に目立って聞こえるハンド・ベル、弓で弾くコントラ・バスの下降音、ジョンによるコンガもここで聞かれます。さらにタンバリンもここにあります。このタンバリンは途中一箇所だけタンバリンだけが聞こえる箇所があり、それは最後の2回繰り返されるサビの一回目の直前です。

 R側にもたくさんのオーバー・ダブが置かれています。ほとんどがR振切りで、こちらは主に木管類と金管楽器で、4台のフルート、2台のピッコロ、2台のトランペットとホルン、ハーモニウムをヴォックスのアンプにつないでリバーヴをかけた音、そして有名なピッコロ・トランペットの間奏の部分はこの位置に置かれています

 このピッコロ・トランペットはその他の箇所ではL45度で鳴っています。おそらく、間奏の部分だけパンポットでR振切りに移動させたのでしょう。

 サビの部分での特徴的なブラス・アレンジは別録りのようです。定位は左右の振切りにトランペットを、そしてこれらに挟まれるようにセンターにホルンとなっているようで、この音は他のオーバー・ダブよりも活きがよく、ずっといい音です。おそらく他のテープに別録りしたものをリミックスの段階でプリントしたのでしょう。そう考えて聴いてみると、何度か繰り返されるこの音はすべて同じ音のようです。

 R振切りで聴かれるトランペットとホルンの2拍・4拍のバッキング・リズムはサックスのような音が混じっています。これはオーボエではないかと最初は思いましたが、どうやらジョンのギターの音のようですね。

 現在でもそれが何の音なのかわからないものもあります。最後のサビの直前にL45度で聞こえるパーカッションのような音は何の音か不明です。もしかするとコントラ・バスの弦をミュートしながら弓で引っかいた音かも知れません。

 さらに、エンディングで鳴り続ける高音も不明です。この音はピッコロでも大変きつい音で、もしかしたらヴォックス・アンプに通したハーモニウムかもしれません。またエンディングの高音の後ろで鳴る低音は、間違いなくピアノをヴォックスのアンプに通してリバーヴをかけた音でしょう。この音は回転操作しているかも知れません。

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ヴァージョン 2 3:12 Stereo 1995 Mix “Anthology 2”

 様々なテイクから取られた音を、組み合わせたヴァージョン。ジョージ・マーティンという人は、原曲のイメージを壊さずにサウンドを華やかにする名人ですね。フィル・スペクターにも、こういう技術を求めるのは酷でしょうか?

 ステレオの定位は、まずドラムスとポールのベース、ポールのヴォーカル、ジョンとジョージのコーラスがセンターになっており、サビの部分だけダブル・トラックのほかはシングル・トラックになっています。そのほかタンバリンは最初はセンターですが、その後R45度で鳴っています。

 今回登場したジョージ・マーティンのアレンジになるオーボエはL振り切りからセンターにかけて広げられています。その他の音の定位は従来どおりです。

 今回のミックスでは曲が終わった後の遊びの音が聞けますが、ここでギターの音が鳴っています。どうやら、この音はジョージのエピフォン・カジノのようですね。原曲のどこで鳴っているかはわかりません。またポールのおしゃべりの声はジョンそっくりに聞こえます。

 この声は、ポールが歌いこんで声がかすれ始めるときの声で、これまで私が主張してきたあまり音がよくない録音時にポールがジョンの声に似せて歌うときの声、つまりポールの声音の根拠とも言えると思います。



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ヴァージョン 3 Stereo CD Box Set“E.P.s Collection”

 現在のステレオ・ヴァージョンは、このヴァージョンが増えてきました。このヴァージョンには、他にはないトランペットの音が入っています。間奏前の“It's A Clean Machine”の後に、トランペットが挿入されています。この音はバッハ・トランペットではなく、普通のものです。

 恐らく、6719日にオーバー・ダブされたものでしょう。最近では、こちらのヴァージョンが一般的のようです。ステレオの定位は、Ver.1と同じです。

 

ヴァージョン 4 CD Stereo Best 67-70 Blue

 CDで発売されたベスト盤のいわゆる『青盤』のこの曲は、異なるヴァージョンです。従来のヴァージョンで振切りに位置するホルンが、センターに置かれています。

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ヴァージョン 5 Mono(RM11)  Boot LP “Collectors Item”

 この曲のプロモートのために、アメリカとカナダのラジオ局に配ったプロモーション・レコードには、エンディングに他には無い、バッハ・トランペットのフレーズが入っています。このプロモ盤はマニアの間でも超貴重盤なので、入手は困難です。現在では多数のブートレグに収録され、定番になっています。

 

ヴァージョン 6 Trumpet Ending Stereo VerBoot CD “The World's Best”

 アメリカでプロモーション用に放送局に配られたトランペット・エンディング・ヴァージョンのリアル・ステレオ・ヴァージョンです。

 前述の様に、これは70年代に入ってからEMIが作り出したステレオ・ヴァージョンです。ステレオの定位は、Ver.1と同じです。

 

ヴァージョン 7 Stereo Boot CD

 これは編集によって作られたヴァージョンで、ヴァージョン3のステレオ盤にトランペットのエンディングを加えたものです。アメリカ編集盤LP“Rarities”に、収録されていました。ステレオの定位は、Ver.1と同じです。

 

ヴァージョン 8  Stereo Boot CD

 このヴァージョンはVer.1と同じベーシック・トラックですが、2回目の歌詞の、“Pies In Summer”のところが音飛びしているそうです。残念ながら、私は所有していません。

 

ヴァージョン 9  Stereo Boot CD

 トランペット・エンディングヴァージョンのステレオ版です。が、リアル・ステレオでは無いようです。

 

ヴァージョン 10 Mono TK Unknown “Ultra Rare Trax Vol.1”

 “Rarities”に収録されたテイクと同じトランペット・エンディング・ヴァージョンですが、このヴァージョンは異なるモノ・ミックスです。

 全体的にヴォーカルがオン、ピッコロとフルート、ピアノがオフ。更に、曲が始まる前にポールが、なにやらゴニョゴニョ言っているのが聞こえます。またラスト近くでは、ブラスがオンになっています。

 

ヴァージョン 11 Real-Stereo Promo 45 Mix Boot CD

 イントロ・カウントから入って、トランペット・エンディングとなるステレオ・ヴァージョンで、ヴァージョン10の別ミックスです。違いはコーダのピッコロがオンになっています。

 ステレオの定位は、Ver.1と同じです。

 

ヴァージョン 12 US Promo Mono Mix RM11 Boot CD “Hodge-Podge Vol.4”

 現在でも希少な「真性トランペット・エンディング、RM11」です。このモノ・ヴァージョンはブート・レコードの時代からたびたび収録されてきましたが、当時のアナログ・ブートレグの音質は最悪で、聴くに耐えないものでした。

 その後アルバム“Rarities”などで、ステレオ・ヴァージョンに編集を加えたトランペット・エンディング・ヴァージョンが発売されましたが、元もとのプロモ盤に収録されたこのRM11はコンディションの良いものが少なく、ブートCDの高音質海賊盤の時代にあっても、変わり無く希少ヴァージョンとなっています。

 ここに紹介したRM11は、これまでに発表されたどのブートレグのヴァージョンよりもコンディションがよく、大変素晴らしいクオリティで聴くことが出来ます。